上川タイム

日本サッカー界を代表する審判であるとともに、厳格なジャッジでも知られる上川徹氏を、暖かい眼(?)で見守るブログ♪

たまには真面目に考えてみる

 少し前に誤審騒ぎ(を出す選手の取り違え)があり、今季はそれ以外にも話
題を呼ぶジャッジがいくつかあったこともあり、副審を含めた複数の人間の目に
よる判断の必要性が論じられたりもした。(余談だが、FIFAでも副審4人制の導
入についての議論があり、ニュースになっていた。)

 ジャッジを行う際に、主審が全知全能であることは望み得ないから、副審も含
めた複数の人間の目で見るということは一定程度必要であると思うし、主審から
見た場合に死角になるエリアでのプレーについて、副審に確認するといった判断
が必要になることも、まあ大方の同意が得られるのではないかと思う。


 とはいえ、複数の人間で判断を下すことには、複数の人間で行うがゆえの難し
さが伴うことを、事前に踏まえておく必要があるのではないか。


 選手同様、審判も評価にさらされており、評価の高い選手がビッグクラブへの
移籍、高い報酬、ナショナルチームへの選出、W杯などの国際大会への出場と
いった、有形無形のリターンを手にするように、審判員も、高い評価を受けること
が、国際主審・国際副審への指名、国際大会への出場といった名誉を得ること
につながる(報酬体系がどのようになっているかはよくわからないが)。


 いま、無前提に「高い評価」と書いたが、審判員の間での競争が公正に行われ
るためには、誰もが納得するような評価がなされることが不可欠になる。また、責
任を持ってジャッジを下す場合、その「責任」には「評価」が伴う。ジャッジに責任
を持つ人物に対しては、高評価である場合には賞賛が、低評価である場合には
批判が与えられる。逆に、責任を付与されていない人間は、賞賛、批判の双方と
無関係で然るべきだろう。

 例えば、W杯でオラシオ・エリソンドが、副審の判断を覆して、自らの判断を貫
いたことがあった(エリソンド意外にもそのようなケースはたくさんあるだろう)。
もし、そのジャッジが高い評価を得るべきジャッジだったとしたら、その栄誉はエ
リソンドに与えられるべきだし、逆に、それが低い評価を受けるべきジャッジだっ
たとしたら、批判されるべきは、専らエリソンド1人ということになる。責任を持って
ジャッジを下すということは、そういうことなのだと思う。


 それを踏まえたうえで、何らかの形で、「主審+副審などの主審以外の人間」と
いう複数者での共同作業でジャッジを行うというケースを想定するとどうなるか。


 主審が判断に困った場合に、何らかの他者に意見を仰いだとする。その場合
に、結果に対する評価を自ら1人が受けるとしたら、主審はその意見を十分に受
け入れることができるだろうか。逆に、主審に対して意見を述べた側も結果責任
を問われるとしたら、個人的には正しいと感じるが主審の見解とは異なるというよ
うな意見を言おうとするだろうか。

 「みんなで協力してやりましょう」というと聞こえはいいし、日本社会ではそうし
た協調性が重視されがちだという気もするが、とりわけ、実力主義ないし結果が
重要な世界では、協力した場合の、責任の分担が明示されていることが決定的
に重要になるように思う。あるいは、少なくとも、周囲で眺めているしかない観客
は、そうした事情をあらかじめ理解しておかないと、無意味な批判を無意味な方
向に向けるということにもなりかねない。 



 そう考えてくると、複数の人間の目でジャッジを行うことが、仮に著しい誤審の防
止に寄与することは間違いないとしても、そうしたジャッジのあり方を制度化するこ
とはそれほど簡単ではなく、いまだ多くの試行錯誤が必要なのは間違いないとこ
ろだろう。複数の人間の視野で判断するという総論は必要と思いつつも、安直な対
症療法ではなく、慎重な制度運用の模索を続けていくことが必要になるのではな
いかと思うのだが、どうだろう。
  1. 2007/06/06(水) 18:30:16|
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